約1㌶の土地に100棟余りの家屋が密集する集落は、路地が入り組み、さながら迷路のようだ。「通学路なら絶対迷ってしまう」と清司さん。「今も人が住んでいる」と聞いた真下さんは「これだけ家が近いなら、ご近所さん同士は仲がいいはず」と想像を膨らませる。
思いのまま道をさまようと、女優の 吉永小百合さんのCMでおなじみの三角家にたどりつく。CMをまねて、船のような家屋の前でポーズを取れば、気分はすっかり大女優だ。
集落を離れ、宿根木海岸へ向かう。5分ほど歩き、手掘りの隧道(ずいどう)を 抜けた瞬間、赤茶けた岩場の風景が一面に広がる。波で削られた海底が地震で 盛り上がりできた「隆起波食台(りゅうきはしょくだい)」は「まるで火星のようだ」と今、話題のスポットだ。ぎらぎらと太陽が照りつける中、「本当に火星みたい」と思わず声が漏れる。
「かつてここは海の底だった」との説明を受け、2人とも驚いた様子。「まるで 異世界に迷い込んだよう」(清司さん)「初めて来たけれど、すごく新鮮な風景」(真下さん)と、太古から続く大地の営みに思いを巡らせた。
千石船の基地として江戸後期から明治初期にかけ栄華を極めた佐渡市小木地区の宿根木は、「佐渡の富の三分の一を集めた」とも言われる。往時の風情が今も残る街並みに一歩足を踏み入れると、歴史の重みが伝わる。集落に近い海岸線の岩場に目を向ければ、火星のような赤茶けた風景が広がり、大地の変動を感じさせる。豊かな自然や、そこから生まれたさまざまな食材、そして先人から受け継いだ 伝統と文化。奥深い島の魅力は、訪れる人の心を とらえて離さない。
「SADOプライド」プロジェクトを展開する新潟日報社と佐渡観光応援公式サポーターを務めるNGT48がタッグを組んだ「NGT48推し旅」の第3弾は「南佐渡編」。メンバーの清司麗菜さん(22)=埼玉県出身=、真下華穂さん(23)=静岡県出身=が、南佐渡を巡り、「島の宝」を余すことなく伝える。
【宿根木 】
美しく整えられた竹の防風柵から、 宿根木の集落に入ると、目の前に狭い 小路が現れる。江戸の情緒を感じさせる石畳を軽やかに歩けば、突然の通り雨も気にならない。廻船(かいせん)業や造船業で栄えた姿を今に伝える街並みに「とってもレトロ」と2人のテンションは上がる。
SHUKUNEGI
【たらい舟】
細い坂道を車で下ると、ごつごつと した岩場に囲まれた入り江に到着した。朱色の太鼓橋が印象的な「矢島・経島」は、まるで絵はがきのような風景。2人の心も躍る。船頭さんに誘われるまま、たらい舟に乗り込んだ。
TARAIFUNE
これまで何度か、たらい舟に乗った ことがあるという2人。2年前、この地を訪れた真下さんは「何度乗っても楽しい」とはしゃぐ。一方の清司さんは「底まできれいに見えるね」とほほ笑む。どこまでも澄み切ったエメラルドグリーンの海中をのぞき込むと、2人を歓迎するかのようにクロダイやアジが悠々と泳いでいた。
一本のかいを巧みに操り、スイスイと 進む船頭さんに、「長時間こいでも全く 疲れていない。さすがプロ」と清司さん。 たらい舟がきちんと前に進むよう、この 道およそ10年という桃井良子さん(76) からこぎ方のこつを習った。
30分ほど「舟の旅」を楽しんだ2人。 入り江には穏やかな波が打ち寄せ、ゆっくりした島の時間が流れていった。
【赤泊の食】
新鮮な魚介類を楽しみに島に通う リピーターは多いが、赤泊地区といえば、やはりベニズワイガニ。カニ直売所の 「弥吉丸」では、水揚げされたばかりのカニをゆであげる朝の風物詩を見学した。 もうもうとゆげが立ち上る中、ルビーのように輝くベニズワイガニを次々と 沸騰したかまに入れる。「こんなに間近でカニを見たのは初めて」と興奮気味の 真下さん。清司さんも「すごい迫力」と 目を輝かす。
AKA
DOMARI
従業員からむき方のレクチャーを受けたが、お手本のようにうまくは抜けない。悪戦苦闘しながらも身を頬張ると「甘い」と歓声を上げる2人。その笑顔がおいしさを物語っていた。
その後、同地区の北雪酒造を訪ねた2人は、羽豆大代表取締役社長(36)を案内役に、酒蔵の内部を〝探検〟した。
超音波で熟成させた焼酎や、地下氷温貯蔵庫で24時間、音楽を聴かせ続けた「音楽酒」など初めて目にするお酒に興味津々。「遠心分離機で抽出すると、もろみに圧力をかけず、お酒の香りが逃げない」と語る羽豆社長の説明に聞き入った。
最後はやっぱりお楽しみの試飲。「北雪大吟醸YK35」や梅酒、佐渡産のイチゴを使ったリキュールなどを堪能した。甘酒がお気に入りという真下さんは、「とろみが強くまろやか」と大絶賛。清司さんは「上質な梅そのものの味がする」と梅酒をお土産に購入した。新たなお酒との出合いを楽しんだ2人。改めて佐渡の食の底力を実感していた。